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Ikehara Architect & Associates,池原靖史,池原靖史建築設計事務所,株式会社池原靖史建築設計事務所

盛岡の家

House in Morioka

所在地 岩手県盛岡市

主用途 専用住宅

設計

 東京都市大学/中川純

 池原靖史建築設計事務所/担当 池原靖史

 早稲田大学/菅野颯馬


構造設計

 滋賀県立大学/永井拓生


環境実測・検証

 東京都市大学/中川純

 早稲田大学/菅野颯馬


施工

 既存解体調査

  池原靖史建築設計事務所/担当 池原靖史

  トミ設計室/担当 冨山正幸

  早稲田大学/菅野颯馬


 第1期工事(吹抜け設置工事、2F断熱補強工事+内装工事)

  上野建築 担当/上野一男

  丸山建設 担当/六本木昭浩


 第2期工事(減築工事、1F外壁設置工事+内装工事)

  ウチノ建設株式会社 担当/打野秋男


構造 木造 軸組

階数 地上 2階 

敷地面積 約 454 ㎡

建築面積 127.13 ㎡

延床面積 113.31 ㎡


竣工 2019年10月


写真 ©️山岸剛



Title: House in Morioka (Boundary-Redefined House)

Location: Morioka-shi, Iwate, Japan

Principal use: House


Architects:

 Tokyo City University / Jun Nakagawa

 Ikehara Architect & Associates / Yasushi Ikehara

 Waseda University / Soma Sugano

 

Structure engineering:

 The University of Shiga Prefecture / Takuo Nagai


Structure: Wood

Scale: 2F

Site Area: Approx. 454 ㎡

Building Area: 127.13 ㎡

Total floor area: 113.31 ㎡


Complete: 2019


Photograph: ©️Takeshi Yamagishi

住宅ストック群に新たな住まいを塗り重ねる
「界築(かいちく)」のプロトタイプ

岩手県盛岡市に建つ、築80年の在来木造軸組住宅の改修。関東近郊に別々に暮らす親族らが定期的に集まるための場所を孫の代まで繋ぎたいという建主の思いに応えるべく、外皮減築、断熱補強、耐震補強といった有効性の高い改修メニューを組み合わせ「住み継ぎ」の具現化を目指した。計画初期にはつぎつぎと立ち現れるトラブルやハードルの「特殊性/一回性」に対峙することになったが、そうした小さな躓きが原因となって建替えや現状維持が選択されてしまう住宅ストックが国内に無数に存在する現実を肌感覚に刻みながら、「普遍性/一般性」を志向する工学的態度で設計に取り組んだ。

既存建物の外皮を四方ぐるりと減築したうえで任意の柱位置までセットバックして新たな外壁を設け、豊かな屋根下外部空間を得るとともに、コンパクトな内部領域の快適性を担保するために新設外皮を高断熱化し、同時に外皮ラインに沿って耐震要素をバランスよく配置した。既存不適格の基礎は、建物全体をジャッキアップせずに柱一ヶ所毎に順次基礎を更新する構法を考案/採用している。


改修対象となる建物の規模が設計与件に比して大きすぎる、という状況は極めて今日的であり、既存建物をボリュームダウンしながら自由な境界を築く本計画の手法は、様々な場面で参照可能である。この家は、縮小時代に住宅ストックを豊かな建築資源に読み換える筋道を示す実践的構法のプロトタイプとしての価値を有している。一方で、固有解として眺めると、そこにはプロトタイプという説明に納まりきらない具体的な「家」の気配を認めざるを得ない。住宅建築は人に住まれることで初めて持続可能となる。過去に幾度か行われたらしい増改築と今回の改修は等価であり、その時々に住むために必要な改修が塗り重ねられて、今日までこの家は存続している。この事実を表現上の手掛かりとして、構造体は可能な限りそのまま利用しながら最小限の手数で設計与件を満たし、性能を向上させた。結果として恣意的な表現は削ぎ落とされ、度重なる改修の空気感が重奏する場所が生まれた。それはまるで「住み継ぎの意志」がそのまま空間化したようでもある。


竣工から4年が経過した。建主らは年に数回この家を訪れ、愛着を深めている。建主の孫たちも、長期休みの度に「盛岡に行きたい」と言って遊びに来るそうで、それを見た建主は家の墓を盛岡に残すことを決めたという。彼女らが体現しているのは、「おばあちゃんの家を、おばあちゃんの家のまま、別荘として引きつぐ」という特徴的な形式の住み継ぎである。社会通念上、住み継ぎと言えば暗黙のうちに定住が前提になっており、それが足枷となる場面も少なくないだろう。場所に対する愛着を共有しつつ別荘としてひとつの家を継承するあり方は、地方都市の住宅ストック問題に対する回答の幅を拡げるはずだ。


今回の改修を経て、この家は築100年を超えていくに違いない。引き続き設計者として建築の「メンテナンス」に伴走しながら、定住を前提としない新しい住み継ぎの行く末を見届けたい。

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Photo by Takeshi Yamagishi / Takuya Seki

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